
周りの言葉をヒントや原動力に。
自分を変える勇気を持ち、可能性を切り開く。
snob 代表取締役 吉田 隆司
私は18歳から美容師として働いています。
父は友禅の職人で、幼い頃から自分も同じ道に進もうと考えていたのですが、高校時代にヤンチャをして「よそで修業をしてこい」と父に激怒され、何の仕事に就くか考えた時にパッと思いついたのが美容師でした。
私は美容室に行ったことがなかったのですが、手先が器用だったので「美容師の修業をする」と父に伝えると、猛反対されましたね。
結局、叔父が父を説得してくれたのですが、その時「まあいいよ。どうせ三日坊主で終わるだろうから」と言った父の言葉が忘れられなくて。
辛い時も決してくじけない、私の原動力になりました。
父を説得した日に偶然美容院を見つけて、早速入ってみました。
バイトの面接すら受けたことがなかったので勝手が分からず、「美容師になりたいのですが、ここで雇ってもらえませんか?」と、スタッフに話しかけてみたんです。
今考えると無謀でしたね(苦笑)。
最初はもちろん驚かれましたが、なんとか面接までこぎつけて社長に採用してもらい、次の日から働き始めました。

通信制の美容専門学校で学びながら働いていたのですが、私以外のスタッフは全員年上で経験もある女性ばかりでした。
一番年下で何のスキルも知識もない私は、毎日しかられていました。
自分が未熟であることが、涙が出そうになるくらい悔しくて、何度も辞めたいと思いましたね。
しかし父の言葉を思い出すと、“辞めたい”と言えませんでした。
父にやっぱりお前はその程度の奴かと思われるのが、絶対に嫌だったんです。
その時は一番に指名されるアシスタントになろうと決めて、仕事を任されるたび一つひとつ目標を立てていました。
そうしているうちに、いつの間にか先輩をどんどん追い抜いていって、だんだん美容師が楽しくなっていきました。
ようやく自分にも後輩ができた頃、ヴィダルサスーンの元アートディレクターが京都でセミナーをすると聞いて見に行きました。
彼のアーティスティックな姿やデザイン性の高さに衝撃を受け、自分もアーティスティックなカットがしたいとこっそり練習を始めました。
それが社長にバレて、方向性の違いから約3年間働いた美容室を辞めることとなりました。
次の店で3年間働いて24歳の時に独立し、京都の洛西にお店を出しました。

当初は夢や希望を持ってスタートしたのですが、そこそこ稼げて仕事が安定してくると、美容への情熱がだんだん薄らいでいくのを感じました。
34歳になった頃、そんな私を見かねた取引業者の方が「このままで良いんですか。このままならあなたは10年後、どうなっていると思いますか」と問いただしてくれました。
私は「恐らく今より良くないでしょうね」と正直に答えながらも、改めて自分の目指していた美容室について考えてみました。
「そうだ、私は50年、60年と続くような立派な店を作りたかったんだ。でも今さらどうすれば……。」
「その夢を実現したいなら、今日から180度違う自分になることです。これまで惰性で続けてきた施術や接客方法、経営、全てをリセットして1からやり直すべきです。」
その言葉を受けて一念発起し、翌日店のスタッフに「京都で一番の美容室を目指そう!!」と熱い思いを語り、一番の基礎であるシャンプーから全員でやり直すことにしました。
しかし、今まで惰性でやっているような職場に勤めてきたスタッフたちが、急な方向転換に付いてきてくれるわけもなく……。
一時は妻と妹しかいなくなってしまいました。
規模は縮小せざるを得ませんでしたが、高い志を持って営業を続けた結果、自然と良い人材が集まるようになりました。
自分が変われば周りも変わるんだということを実感した出来事でした。

ガラリと方向転換した頃からクリエイティブワークに興味を持ち始め、自分でスタイル撮影を始めました。
当時は機材のことが全く分からず、手探りでカメラやライトを色々試してみましたね。
クリエイティブ作品を増やしていくと、HPの写真を見てなのか、京都だけでなく奈良や大阪からのお客さまもどんどん増えてきました。
そのタイミングで河原町に新店を出しました。
河原町の店舗は6席しかない15坪の小さな店でした。
遠方からのお客様も増え、意気揚々とオープンした河原町店でしたが、当初の売り上げは思ったほど芳しくなかったですね。
そこで私は、美容関連雑誌にスタイル写真の持ち込みをしながら、東京で人脈を広げることに尽力しました。
ある時、その縁で宝島社のエディターを紹介してもらいました。
当時、10~20代の女性に絶大な人気を誇っていた『SPRiNG』や『CUTiE』といった雑誌に取り上げてもらったことをきっかけに、爆発的にお客様が増え、2年後に「snob enVAmp」をオープンしました。
そして同年、ジャパン ヘアドレッシング アワードでグランプリを受賞しました。
一度軌道に乗ると、色んなことが上手くいくようになりましたね。

これから社会に出る学生さんに私が求めるものは、感じる力です。
物事に対して自分がどう感じるかを考えられる人であって欲しいと思います。
今の若い世代は壁にぶつかった時、自分の味方をして優しい言葉を掛けてくれる人に相談してしまいがちだと思います。
ですが、ただ慰めてくれるのではなく、モチベーションを上げてくれるような人に相談してみてください。
自身の在り方について改めて考える、良いきっかけをくれると思います。
相談する相手の人間性を見極めるのも、感じる力の一つだと思います。
たまに「吉田さんみたいになりたいです」と言ってくれる新人が入ってくるんですね。
もちろん慕ってくれるのは喜ばしいことなのですが、「口だけじゃなく、きちんと努力しようね」と伝えます。
実際にできるかは分かりませんが、どうなりたいか目標を掲げて働いてくれたり、自分の想いを真っ直ぐに表現してくれたりする人がいると嬉しいですね。
人生の3分の1は仕事をして過ごすのですから、きちんと努力できる仕事を選んで、熱意を持って働いて欲しいです。

現在の目標は、全店舗の顧客満足度を向上させることです。
そのためにもまずは従業員満足度の高い職場作りを目指しています。
スタッフの教育に関しても、今の時代に合わせて、厳しさの中にも愛を持って育てて行きたいですね。
時代の移り変わりとともに注目されるメディアがどんどん変わっていますが、これからは本質的な部分に帰ってくる気がしています。
顧客の口コミで新規のお客様が増えたりとかね。
SNSで爆発的にフォロワーを増やすより、来てくれたお客様一人ひとりに対して情熱を持って、誠実に仕事をすることの方が私は大切だと考えています。
私の夢は、次時代を担うスタッフが、大きな夢を持って働いてくれる姿を見ることです。
夢を応援するにはその人の話をきちんと聞くことが大事だから、幹部とは特にしっかり話をしています。
スタッフの語る夢に対してアドバイスをしたり、ナンセンスならもう1度考えてみるよう諭したり。
夢があると自然にモチベーションが上がって、日々の業務に一生懸命取り組めるようになりますよね。
相乗効果で顧客満足度も上がる。だから私は、従業員が夢を持って働ける職場作りを通して、「snob」をもっと魅力的な場所にして行きたいと考えています。