
僕が中学生の頃、ある日突然同級生がめちゃめちゃカッコイイ髪型にしてきたんです。
当時大人気だったチェッカーズみたいな髪型がうらやましくて、彼が通っているサロンを紹介してもらいました。
その時に「美容師によって髪型ってこんなにも変わるんだ! 美容師ってスゴイな!」と思ったことが、美容業界を目指したきっかけです。
高校に通いながら通信教育で美容師になるための勉強をはじめ、卒業後、高校の先輩の紹介で大阪のサロンに就職しました。
最初は何もできなくて、とにかく先輩方についていくことに必死でしたね。
シャンプーやカットの技術を磨くことはもちろん、店内の掃除や、「毎日遅刻せずに仕事に行く」という社会人として当たり前のことさえ、ひと苦労でしたから。

そんな僕も早や40代。自分の店を経営するまでになりましたが、カッコイイと思うものや好きなものは、10代の頃とあまり変わっていないかもしれません。
僕が多感期を過ごした1980~90年代は、アメ村や堀江といった「ストリート」が、今よりもっと勢いのあった時代。
ちょっとやんちゃな人や尖った人も多くて、そういうのがカッコイイ時代でした。
だからこそ僕がカッコイイと思うものは、今も昔もストリートにあるんです。
もちろん大人になって社会に出ると、尖がったものが受け入れられないケースも多いと思いますし、コンサバティブなヘアスタイルを作ることができる美容師は、それはそれで大切。
それでも僕が作りたいデザイン、やるべき仕事は、やっぱり「ストリートを颯爽と闊歩するカッコイイ人」を作り出すことなんですよ。
2000年代以降、70年代、80年代の焼き直しがブームになって、その時々の色というか、時代性がぼんやりとしてしまった。
モノもファッションも街にあふれすぎていて、「ない」ことに対する飢えや貪欲さの欠如が、その時代らしさを生み出すエネルギーを人々から奪ってしまったのかもしれません。
しかし、いつの時代も時代を作るのは人であり、その「人を作る」ことこそが美容師の仕事。
ヘアスタイルやファッションがその人らしさを作り、その土地らしさ、その時代らしさを作るんです。
価値が多様化する現代にあって、その流れを甘受するのではなく、僕が作りたいデザイン、僕にしかできないデザインをもっともっと発信していきたい。
最近は大きな商業施設や高層ビルに出店するサロンも増えましたが、ストリートの魅力をダイレクトに発信できるのは、路面店ならではの強み。
その土地に根付いた、そこを歩く人々に必要とされるサロンでありたいと思っています。

「Nicole.」「SUMI」「Redio」「Jurrian-may」 の4店舗は、すべて自分たちでデザインしましたが、当初は「デザイン会社を立ち上げよう」なんて、まったく思っていませんでした。
プロにお願いしても、なかなか自分のイメージが伝わらなかったり、思うようなインテリアや壁材が集まらなかったりで、「それなら自分でやってみればいいんじゃない?」と思ったことが店舗デザインを始めたきっかけ。
どうせやるなら、自分がいいと思うものをお客さんにも感じてもらいたいと思って、内装にもとことんこだわりました。
30代の頃、パリの雰囲気が好きでよく遊びに行っていたんですが、向こうでは、何10年、何100年モノの家具や食器が今もたくさん残っていて、それらが普通に家庭で使われ、愛されている。
日本ではあまり見られないその光景に衝撃を受け、現地で買い付けてきたアンティーク家具を内装に取り入れたり…。
そんなふうに、思い入れだけはプロ顔負けのサロンでしたが、その雰囲気を気に入ってくれた美容師さんから「うちの店もデザインしてほしい」とリクエストをいただくようになって、「Nico Design Office」ができたんです。

僕たちは決して建築のプロではないけれど、「お客さんが心地よさを感じる空間」や、「美容師がストレスなく動ける店内の導線」など、同じ美容師だからこそ、プロ以上に理解できる部分もある。
そこに依頼してくれた美容師さんならではの質感や空気、物語を足していく作業は、ヘアスタイルの作品作りにも似ていて。
何より、できあがったヘアスタイルや店舗を見て、お客さんが喜んでくれる。
ヘアスタイルをデザインすることと、店舗をデザインすることが、僕にとっては同じに思えたんです。
最近は年間10~15件のヘアサロンを全国各地でプロデュースしています。
僕は生まれも育ちも大阪なので、まったくルーツがない土地での店舗づくりは面白いですね。
はじめて訪れる街で美容師さんや異業種の職人さんと出会い、その思いを感じられることは、とても刺激になります。

「美容師の仕事は髪を切ること、店舗の設計は建築家の仕事」。
そう考えていたら、「Nico Design Office」は生まれませんでした。
美容師はヘアスタイルを作るだけじゃない。
その先にあるもの、世界観ごとデザインできる仕事です。
それなのに美容師の仕事の幅を自ら狭めてしまうのは、本当にもったいない。
狭い業界内で競い合うのではなく、ほかのあらゆる業種にライバル心を持つべきです。
美容業界を盛り上げていけるのは、ほかでもない僕たち自身なんですから。
誰かが盛り上げてくれるのを待つのではなく、自ら動く、その気持ちが何より大切です。
僕は「デザイン」を通して、美容師の可能性の一端を提示することができましたが、ほかにも経営や接客など、美容師が活躍できるフィールドはたくさんあるはず。
もちろん、僕もまだまだやりますよ! 年をとっても、新しいことへのチャレンジを躊躇しないのが、僕の長所です(笑)。
自分が感じたことや思ったことをフットワーク軽くやっていきたい。
そして僕が自分のサロンやデザインに込めてきた思いのすべてを、若いスタッフに伝えたい。
たくさんの美容師を巻き込みながら、美容業界をもっともっと盛り上げていきたいですね!