
美容の世界に入ったきっかけは、実は軽い気持ちからだったんです。
高校3年生の時に、そろそろ進路を決めなきゃって時期になって、「自分は何がやりたいんだろう?」って考えたんです。
思い浮かんだ選択肢は3つ。料理、洋服、それと美容。
元々、モノづくりが好きでファッションにも興味があった。
そこで選んだのが、美容だったというわけ。
感動的な物語を期待されると申し訳ないんだけど(笑)。
でも、物事を始めるきっかけっていうのは、案外どうでもいいって思うんです。
大切なのは、始めてからどういう風に取り組んでいくのか、どれだけそれに熱を入れて打ち込めるか、ってことですよ。

高校卒業と同時に、地元・福岡を離れて大阪の美容室に就職しました。
友達や知り合いが一人もいない土地に行きたかったんです。
友達が近くにいると仕事よりも遊びに流されてしまう、そんな自分の弱さを知っていましたからね。
大阪に来て、一番最初に仲良くなったのは、近所のコンビニでパートで働いているおばちゃんでした(笑)。
休みの日に遊びに行くところも知らないし、一緒に遊ぶ友達もいない。仕事に打ち込むしかない環境でした。
修行のために大阪に来たつもりだったから、仕事がキツいとは思いませんでしたね。
でも、仕事の内容にはギャップを感じていました。
馴染みのお客様が来店されて、オーダーされるままにカットする。
それじゃまるで、お客様がデザイナーで、美容師は単なる作業員じゃないですか?そこには、ヘアデザイナーとしての提案なんてものは存在しない。
そんな時に出会ったのが、LIMでした。
お客様のニーズとヘアデザイナーの思いを上手く融合させていく、いわゆる提案型のサロンのあり方に「これが美容師の仕事だ」って思いましたね。
LIMにはお客様とコミュニケーションしながら満足を創りあげていくっていう、美容師の仕事の本質を感じたんです。

最近は、海外に活躍の場を求める若い世代も増えつつありますね。
そういう若い人たちに、いつも言っていることが二つあります。
一つは、「何をしに行くのか、何を得て日本に帰って来るのか、それをちゃんと自分の中に持て」ということ。
行けば何とかなるだろう、っていう甘い考えでは絶対にダメ。
せっかく海外に行っても、日本人としか付き合わず、友達の家で日本人の頭をカットしてチップをもらって……という話をよく聞きますが、それじゃあ海外に行く意味なんてない。
目的が明確な人は、ちゃんと海外で何かを成し遂げて、グンと成長して帰って来ますよ。
もう一つ大切なのは、日本人としてのアイデンティティや、美容師としての誇りや使命をしっかりと自分の中に持つこと。
自分は何者なのか、何のためにここに来たのか。それを見失ってしまうと、長続きはしません。
海外勤務のLIMの若いスタッフにも、アイデンティティとミッションを持たせることを、まずは徹底してやっています。
それが、最前線で働いているんだというプライドにつながり、モチベーションになるんです。

一昔前は、美容師として成功して、いい車に乗って、いい家に住んで……
っていうサクセスの形があって、そういうのにぼくも憧れていたけど(笑)。
でも、今は違いますよね。
ファッション性やオシャレさを追求するだけじゃなく、美容師の仕事を通して世の中のために何ができるのかっていうことを考える時代になってきているんじゃないかな。
お客様もそういう部分を判断基準としてちゃんと見ているから、上っ面だけでやっているところは、これからはどんどん淘汰されていきますよ。
業界としても、美容師っていう仕事が世の中のためになる素晴らしい仕事なんだっていうことを、しっかりとアピールしていかなきゃいけない。
若い美容師の人たちは、自分が美容という仕事を通して、世の中に何ができるのか、何を為すべきかということをひとつの哲学として、自分の“芯”を持てるようになってもらいたいですね。
しっかりとした“芯”があれば、日本の中に限らず、世界中どこに行っても通用します。
そういう意味でも、美容師と言う仕事は、まさに修行ですよね。
技術を磨くことも大切だけど、それ以上に、人間としての修行みたいな部分が大きい。
これから美容師を目指す人たちは、そういう過酷な世界だということを理解した上で、敢えて飛び込んできてほしい。
その過酷さを乗り越えてこそ、成長もするし、それだけ大きなものをみんなに返すことができる存在になれるはずだから。
ぜひ、その苦しさを味わって、そして、思いっきり楽しんでください!